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秋田地方裁判所 昭和53年(ワ)399号 判決

原告 藤田孝男

右訴訟代理人弁護士 塩沢忠和

右訴訟復代理人弁護士 沼田敏明

同 川田繁幸

被告 秋田信用金庫

右代表者代表理事 岩川敏雄

右訴訟代理人弁護士 伊勢正克

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の不動産について秋田地方法務局昭和五二年五月四日受付第一三一一五号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という)を所有している。

2  本件不動産について、被告のため秋田地方法務局昭和五二年五月四日受付第一三一一五号根抵当権設定登記(以下「本件登記」という)がなされている。

よって、原告は被告に対し、所有権に基づき、本件登記の抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  原告と被告は、昭和五二年四月三〇日ころ、被告の訴外東北造園株式会社(以下「東北造園」という)に対する信用金庫取引による債権、手形債権、小切手債権を担保するために、本件不動産につき極度額を金三〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、これに基づき本件登記を了した。

2(一)  仮に前項の主張が認められないとしても、訴外児玉新太郎(以下「児玉」という)は、右同日ころ被告との間で、原告のためにすることを示して、本件不動産につき前項同旨の根抵当権設定契約を締結し、これに基づき本件登記を了した。

(二) 原告は、右契約締結に先立ち、児玉に対し右契約及び登記をなすことの代理権を与えた。

3(一)  仮に以上の主張が認められないとしても、児玉は右同日ころ被告との間で、原告であると称して、本件不動産につき前項同旨の根抵当権設定契約を締結した。

(二) 原告は、右に先立ち、同年四月児玉に対し、本件不動産を担保に入れて被告から五〇〇万円位を借用することの代理権を与えた。

(三) 被告は、児玉との間で前記根抵当権設定契約を締結するに際し、児玉を原告本人であると信じ、かつそのように信じるにつき次のとおり正当な理由があった。

(1) 昭和五二年四月一八日ころ、東北造園代表取締役会長訴外本庄喜太郎(以下「喜太郎」という)及び代表取締役社長訴外本庄喜代彦(以下「喜代彦」という)が融資申込のため被告川尻支店を訪れたが、その際同人らは同支店長代理中山祐輔(以下「中山」という)らに対し、同行した児玉を原告であると言って紹介した。東北造園は、当時秋田県のA級指定業者であり、被告川尻支店と同会社とは従来から貸付等の取引があったので、中山は同人らの右言葉を信頼した。

(2) 同年四月二五日ころ、中山は児玉らの案内で本件不動産を見分した。

(3) 児玉は、右契約を締結するに際し、中山に対し、それぞれ原告の実印が押捺されている信用金庫取引約定書、保証約定書、根抵当権設定契約証書、借入申込書、司法書士に対する委任状及び印鑑証明書を交付した。

(四) 従って、原告は、民法一一〇条の類推適用により右根抵当権設定契約上の責を負うべきである。

四  抗弁に対する認否、反論

1  抗弁1項の事実は否認する。

2  同2項の事実は否認する。

3  同3項の(一)の事実は認める。同項(二)の事実は否認する。同項(三)の(1)のうち、喜太郎と喜代彦が児玉を原告であると言って紹介したことは認めるが、その余の事実は知らない。同項(三)の(2)、(3)の事実は知らない。

4  (抗弁3項の(三)に対する反論)

被告は、児玉と根抵当権設定契約を締結するにあたり、児玉を原告本人と信じたことにつき正当な理由がない。すなわち、

(1) 被告は金融機関であるから、取引の相手方が本人であるか否かの確認につき特に重い注意義務を課せられて然るべきである。

(2) 本件の場合、東北造園が二七〇〇万円という極めて高額の融資を受けるために、その全財産を担保に供するという、原告にとって何ら利益のない取引内容であり、しかも被告は、借主たる東北造園において受取手形が不渡となり資金繰りが容易でない状態にあったこと、喜太郎及び喜代彦にはこれといった資産もないことを知っていたのであるから、初対面である原告を自称する児玉が真実原告本人であるか否かを確認する義務があった。

(3) 被告川尻支店長代理の中山は、喜太郎が児玉を「この男は藤田という者で、私の姉の子だ」と紹介した言葉をうのみにして信用し、児玉が原告本人かどうかの確認の措置を何らとっていないが、戸籍謄本等を確かめれば、児玉の詐欺行為をたやすく見抜くことが可能であった。

(4) 中山が児玉の案内で本件不動産を見分したといっても、土地の境界等に関心があって現地に赴いたに過ぎないし、また、自分の家屋敷を見せるために案内してきた者は家の中に入れてお茶の一杯でも出すのが通常であるのに、中山は原告の表札を見せられただけで家の中には入っておらず、その際児玉の不自然な行動に疑問を持つべきであった。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1項及び2項の主張について判断する。

1  《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和五一年六月訴外有限会社大新工業を経営する児玉から、金五〇〇万円を昭和六一年五月までに元利合計一〇〇〇万円を返済するとの約定で借受け、毎月八万円ずつ返済していたが、児玉は右金銭貸与の見返りとして、右訴外会社の秋田相互銀行からの借入金につき、原告所有の別紙物件目録記載(1)、(3)、(9)、(10)、(12)、(13)及び(14)の不動産を担保として提供してもらい、極度額一〇〇〇万円の根抵当権を設定してその登記を了していた。

(二)  児玉は、昭和五二年二、三月ころ原告に対し、原告が児玉からの前記借入金をこのまま弁済していくよりも、原告において銀行から融資を受け、その金員をもって児玉に一括弁済して児玉と原告との間の貸借関係を解消したうえで、その後は銀行に返済していった方が、利率や毎月の返済額等の点で原告にとって有利であると申し向け、右の方法をとることを勧めた。原告は、児玉の言うような方法をとった方が有利であると考え、児玉に銀行から五〇〇万円の融資が受けられるよう尽力して欲しい旨依頼した。その後児玉は、銀行から融資を受けるためには、自己の秋田相互銀行に対する債務の担保として提供を受けている前記不動産のほか、未登記建物(別紙物件目録記載(15)及び(16)の建物)を含めてその余の本件不動産全部を担保として提供する必要があると申し向けたので、原告もこれを承諾し、未登記建物の保存登記手続をすることを含め融資を受けるための手続を児玉に委ねた。そして、原告は、児玉の求めに応じて、本件不動産のうち建物の権利証を交付したり、印鑑証明書を用意するなどした。

(三)  一方、東北造園は造園業を含む株式会社であるが、資金繰りのため昭和五二年四月、取引金融機関の一つである被告川尻支店に対し二千数百万円の融資を申し入れたところ、貸付の条件として担保となる不動産を用意するように言われた。同会社代表取締役の喜太郎及び喜代彦父子は、担保となる適当な不動産を所有していなかったので、取引先の紹介で面識のあった児玉に相談したところ、児玉は、原告所有名義の不動産が自分のもので自由に使えると称して、東北造園が被告から融資を受ける際にこれらを担保として提供することを申し出、そのかわり別紙物件目録記載(1)、(3)、(9)、(10)、(12)、(13)及び(14)の不動産に有限会社大新工業を債務者として設定されている秋田相互銀行の根抵当権を抹消するために五〇〇万円を用意するよう要求した。そこで喜代彦は、児玉の要求に従い、五〇〇万円を用意して児玉に支払い、同月二六日右秋田相互銀行の根抵当権設定登記は抹消された。

(四)  同月一八日、喜太郎及び喜代彦は児玉を同行して被告川尻支店を訪ね、東北造園への融資の件で同店支店長佐々木某及び支店長代理の中山と面会したが、その際喜太郎は児玉のことを藤田(原告)という者で自分の姉の子であると紹介し(真実は、原告と東北造園ないしその経営者とは何ら関係がなかった。)、同人所有の土地建物を担保とするので融資してもらいたいと言って持参した登記簿謄本数通と固定資産証明書を示し、児玉も、右物件のうち秋田相互銀行の根抵当権が設定されているものについては右根抵当権をすぐ抹消できるし、右物件で不足であれば未登記の建物も担保に追加する旨申し向けた。中山らは、喜太郎の言葉を信用して児玉を原告であると信じたが、その際は右申し出を一応検討することとし、喜代彦らに借入申込書の用紙を交付するにとどめた。(喜太郎と喜代彦が児玉を原告であると言って紹介したことは、当事者間に争いがない。)

(五)  次いで、同月二二日ころ、喜太郎及び喜代彦は、前記借入申込書に借入申込額二七〇〇万円、担保物件は別紙物件目録記載(1)、(3)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)及び(16)の不動産(このうち従前未登記であった(15)、(16)の建物は、児玉において同月二一日原告名義で所有権保存登記を了していた。)、担保提供者兼保証人の藤田孝男(原告)は喜代彦の従兄である旨記載し、その他の必要事項も記入して被告川尻支店に持参し、中山に交付した。被告の側では、右融資申込を検討した結果、右不動産に極度額三〇〇〇万円の根抵当権を設定して二七〇〇万円を融資すること(現実には、被告が代理店をしている全国信用金庫連合会が被告の保証で貸付ける。)を決定した。中山は、同月二五日ころ、喜太郎、喜代彦及び原告を自称する児玉の案内で右担保物件を現地に臨んで見分し、児玉から土地の境界その他現況の説明を受けたほか、同月二八日ころまでの間に、右三名から担保物件の登記簿謄本、担保建物の権利証を徴し、さらに融資額二七〇〇万円に見合うように、借入申込書に記載された担保物件のほかに原告所有の別紙物件目録(2)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)の土地を担保として追加するよう要求して承諾を得、喜代彦に信用金庫取引約定書、保証約定書、根抵当権設定契約証書、司法書士に対する登記申請の委任状等の関係書類を交付するなどして、融資の手続を進めた。

(六)  同月三〇日、児玉と喜代彦は原告宅に赴き、原告及びその妻藤田キサに会ったが、児玉は喜代彦のことを「銀行の人」だと言って紹介したので、原告は、先に児玉から話のあった銀行から原告に対する融資の手続を進めてくれているものと誤信し、喜代彦が持参した書類の内容をよく確めずに、銀行に提出する書類だから判が必要だといわれて求められるまま、実印を喜代彦に渡し、喜代彦はその場で保証約定書、根抵当権設定契約証書、借入申込書等の連帯保証人欄、根抵当権設定者欄、司法書士に対する委任状等に原告の氏名を記載し、原告の実印を押捺するとともに、原告から印鑑証明書の交付を受けた。

(七)  右同日、喜代彦は右の書類を被告川尻支店に持参して中山に提出し、東北造園では右同日一七〇〇万円、同年五月一六日一〇〇〇万円を被告から借受けた(右はつなぎ融資で、最終的には同月二〇日全国信用金庫連合会から二七〇〇万円を借受けた。)。一方被告は、同年四月三〇日付根抵当権設定契約証書その他の関係書類に基づき同年五月四日本件登記を了した。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

2  右認定の事実によれば、原告が直接被告との間で本件不動産につき根抵当権設定契約を締結したものとはいえず、児玉が原告を自称して右契約を締結したものというべきであるが、原告は児玉に対し、自己が金融機関から金銭を借用してそのために本件不動産を担保とすることを承諾していたに過ぎず、東北造園の被告に対する債務の担保のため本件不動産を提供することまで承諾していたとはいえず、そのような代理権を児玉に授与したものとみることはできない。《証拠判断省略》

従って、抗弁1項及び2項の主張はいずれも失当である。

三  抗弁3項の主張について判断する。

1  児玉が昭和五二年四月三〇日ころ被告との間で、原告であると称して、本件不動産につき被告主張の内容の根抵当権設定契約を締結したことは当事者間に争いがなく、前示認定によれば、右契約締結に先立ち、少くとも原告は児玉に対し、本件不動産を担保として原告が金融機関から金銭を借入れることの代理権を与えたものと認めるのが相当である。

そうすると、児玉は、原告の名において、かつ原告から授与された代理権の範囲を超えて、被告との間で右根抵当権設定契約を締結したものということができ、一方前示認定によれば、被告の側では右契約締結に際し、児玉の行為を原告本人の行為と信じたものと認められる。

2  代理人が直接本人の名において権限外の行為をした場合において、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたときは、そのように信じたことについて正当な理由がある場合にかぎり、民法一一〇条の規定を類推適用して、本人がその責に任ずるものと解される(最高裁判所昭和四四年一二月一九日判決、民集二三巻一二号二五三九頁参照)から、以下本件において被告に右のような正当な理由が存したか否かについて検討する。

(一)  前示認定の事実によれば、児玉は被告との間の根抵当権設定契約締結の過程で、直接又は喜代彦を介して、被告川尻支店長代理の中山に対し、原告の実印の押捺された関係書類、印鑑証明書、担保建物の権利証等を提出しているのであるから、他に特段の事情がなければ、被告において、原告の名を名乗る児玉を原告であると信用したことには一応相当の理由があるといえる。

(二)  さらに、《証拠省略》によれば、東北造園は秋田県のA級指定業者で官公庁関係の造園工事の仕事もしており、被告とは昭和四九年ころから取引関係があり、中山と喜太郎、喜代彦とは面識があったことが認められるから、前示認定のとおり、児玉を喜太郎の姉の子の「藤田」であると紹介した喜太郎の言葉を中山が信用したのも無理からぬところがないわけではない。《証拠省略》によれば、原告の印鑑証明書には原告の生年月日(昭和六年生)が記載されていることが認められ、一方《証拠省略》によれば、児玉は昭和一二年生れであるから、両者の年齢差が六歳程度であることに照らすと、印鑑証明書の記載に留意しても、直ちに児玉が原告であることに疑念を抱いて然るべき事情があったともいえない。また、前示のとおり、中山は契約締結に先立って本件不動産の現地を見分しており、その際児玉が案内して物件の説明をするなど、巧みに原告になりすまして行動していたことが窺える(原告は、右見分の際児玉が中山を原告宅に入れなかったのは不自然な行動であり、中山は疑問を抱いて然るべきであったと主張するところ、《証拠省略》によれば、中山は原告方の本屋に原告の表札が掲げられているのは見たものの、中には入っていないことが認められるが、このような場合に自宅内に入れなかったことをもって直ちに不自然な行動であるとはいえないと思われるし、案内した児玉に不自然な言動があったことを窺わせる証拠もない。)。

(三)  しかしながら、前示認定のとおり、本件の場合、根抵当権の極度額が三〇〇〇万円、融資額が二七〇〇万円と非常に高額であり(証人中山の証言によれば、右金額は被告川尻支店の融資額としても大きい額であったことが認められる。)、しかも、同証言によれば、当時東北造園は数百万円の金額の不渡手形をつかまされたり、工事代金の入金が遅れるなどの事情により資金繰りが容易でない状況にあり(現に同会社は、被告から融資を受けながら、同年八月下旬銀行取引停止処分を受けて倒産した。)、被告の側でも右の事情を認識していたことが認められるのである(もっとも、同証人は、融資にあたり、当時東北造園が請負っていた墓地造成工事から利益を得られる見込があり、貸付金を回収できると考えていた旨証言しているが、それがどの程度確実性の高いものであったかは明確でない。)。東北造園代表者の喜太郎、喜代彦父子には特に担保となる資産がなかったことは先にみたとおりであるから、右のような状態にある東北造園の多額の債務を担保するために、同会社の経営に無関係の第三者が、その財産の大部分にあたると思われるような多数の不動産に根抵当権を設定するとすれば、その者は、自らは右取引によって利益を得るわけではないのに非常に大きい負担がかかる立場にたつことになる。前示認定のとおり、喜太郎は、原告を自称する児玉を自分の姉の子であると言って被告職員に紹介しているのであるが、単に会社代表者の甥ないし従兄弟に過ぎない者が、右のごとく負担の大きい担保提供者になるというのであれば、なおさらその本人の意思確認はもとより、相手が初対面の者である場合には、真実本人であることの確認もより慎重に行われて然るべきである。実印や印鑑証明書は、取引上行為者の同一性を確認する手段として重要な機能を果していることは否定できないが、他面不正に使用される可能性もあり、これらを所持して本人を称する者が実際は本人でないということも世上ままあることであるから、そのような危険性に鑑みれば、右に述べたような具体的状況のもとでは、金融機関である被告としては、初対面である原告を自称する児玉に対し、その他の何らかの手段を用いて原告本人であることの確認を尽す義務があったものと認めるのが相当である。

(四)  然るに、前掲証人中山の証言によれば、同人は、原告を称する児玉と昭和五一年四月一八日初めて会った際、同人から名刺すらもらわなかったのに、軽々に喜太郎らの言葉を信じ、その後は根抵当権設定契約締結に至る過程において、児玉が原告本人であることに全く疑いを抱かず、前示(一)の印鑑証明書等に頼る以外に何らの確認の措置を講じていないことが認められる(本件不動産の見分も、本人の確認を目的として行ったものであるとは認め難い。)。本件においては、原告が喜太郎の言葉にあるような東北造園の代表者の親戚ではなく、また、借入申込書には原告の職業として会社役員と記載されているが、この点も真実と相違しており(《証拠省略》により明らかである。)、金融機関である被告において調査すれば、容易にこれらの虚偽であることが判明し得たと考えられる。また、確認の方法も、例えば身分証明書の呈示を求め、戸簿謄本を徴し、或いは念のために自宅に電話をしてみるなど様々の方法があり得ると思われ、決して困難であるとはいえないし、前示認定の契約締結の経過に照らせば、調査確認の時間的余裕も十分あったものと認められる。被告は、本件不動産の担保価値の方に注意を奪われるあまり、担保提供者が真実本人であることの確認についての配慮が十分ではなかったものというべきである。

してみれば、前示(一)、(二)記載の児玉が原告本人であると信じさせるような事情があったことを勘案しても、なお金融機関である被告としては、取引上要求される本人確認のための注意義務を尽したものと認めることはできない。

3  以上の説示によれば、被告が、原告を自称する児玉との間で本件不動産につき根抵当権設定契約を締結するに際し、児玉の行為を原告本人の行為と信じたことに正当な理由が存在したとは認められないから、抗弁3項の主張は採用できない。

四  以上の次第で、原告が被告に対し本件不動産の所有権に基づき本件登記の抹消登記手続を求める本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松一雄)

〈以下省略〉

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